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「二つの祖国」 [読書]

二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)

二つの祖国〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: 山崎 豊子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1986/11
  • メディア: 文庫
全三巻です。
1984年NHK大河ドラマ『山河燃ゆ』の原作と言った方が、通りがいいかもしれません。
当時小さかったのに、こんな難しいドラマ見ていたんだなぁ、私。
後に原作読んだのも中学校の図書館で借りたんだし…。
「白い巨塔」「華麗なる一族」「大地の子」等を書かれた山崎豊子さんの小説で一番初めに読んだ作品です。

もともと、この本の記事を書こうと思ったのは先週の記事でした。
SFアニメのサイドストーリーで、嘗て親友だった人たちと敵対しなければならない主人公の苦悩を見ながら、イスラムのニュースで宗派の違いで兄弟が戦っている話を思い出し、そこから嘗て日本人も身内が敵対する立場に立たなければならなかった時代が有った事を思い出した為です。

今日まで記事にするのを待ったのは、今日がこの話の主人公兄弟が敵同士にならなければいけなかった原因が、66年前の今日だったから…。今日は『真珠湾攻撃』の日です。

主人公、天羽賢治は日系二世。アメリカ生まれのアメリカ育ちです。
しかし、高等教育は金銭的な理由や親の考え方等から日本で受けている為、日本語も英語も堪能…。
その為、職場などでは重宝するのですが、日系人と言う事で重要な仕事に就くことが出来ません。
そして、すぐ下の弟である忠は日本に留学中…。
その最中に真珠湾攻撃が行なわれ、家族の下に帰ることも出来ず、やがて日本軍として召集されていきます。

賢治はアメリカ生まれとしてアメリカを愛し、祖先の国として日本を愛しています。
その二つの祖国に対しての愛情を持ちながら、アメリカ軍に日系人と言うだけで収容所に入れられ、やがてアメリカに住む家族の身の安全を守るため、不本意ながら日本兵のいる戦地にアメリカ軍側として赴き、弟・忠と運命的な出会いをすることになります。
誤って弟を傷つけてしまい悩む兄、そして日本を祖国として心に刻み、兄を憎む弟…。

原爆投下。そして戦争は終わり、語学に堪能な賢治は、アメリカ側として戦犯を裁く東京裁判の通訳として雇われます。
兄弟は和解しますが、幼馴染で密かに愛情を持っていた日系アメリカ人女性の原爆症での死。
命令していた側とはいえ、日本人に死刑を告げる役目を背負わされ、アメリカ人には日本人として、日本人にはアメリカ人として冷たい視線に晒される中、賢治は疲れ果てて行きます。

忠の様に日本人にもなれず、その下の兄弟達の様にアメリカを祖国とすることも出来ず、二つの祖国の狭間で引き裂かれていく主人公の苦悩…。

戦争がもたらしたのは、人命の生死だけではなく、名もない一般人たちの精神をも蝕むものだったのでしょう。
最後の賢治の深い絶望は、読んでいて本当に苦しくなります。

『真珠湾攻撃』が苦しめたのは、攻撃を受けた人達だけではなく、日本人そのものをも苦しめていたと言うことを、深く考えさせられる問題です。
同時に、原爆投下時に爆心地にいた異国人もいたはずです。

戦争が苦しめるのはその国の人達だけとは限りません。いえ、その国の人達だって苦しめていいはずはない。そんなことを考えさせられる作品です。

 


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